「学び」は研修だけという時代は終わった。
こんなコピーと共に、「ラーニングデザイン・ハンドブック」という書籍が発売されました。これは、「Designing for Modern Learning」Crystal kadakia/Lisa M.D. Owens著を中原 孝子氏が翻訳出版した書籍です。
昨今、ジョブ型雇用や人的資本経営、リスキリングということが注目されているように、日本企業の人材開発は大きな転換期を迎えています。これからは、企業にとっても、従業員にとっても、学習は成長をささえる重要なポイントになります。
ラーニングデザイン・ハンドブックやDegreed社の職場学習に関するアンケート調査資料やセミナーから、これからの企業内における学習について考えていくためのヒントをご紹介します。
ラーニングクラスターをデザインする
ラーニングクラスターは、個人やビジネスの成功に明確に関連する特定の能力を構築することを直接目的とした学習資産のクラスター、グループのことです。そこには研修だけでなく書籍やビデオ、オンライン会議なども含まれます。また、正式なトレーニングだけでなく、インフォーマルな学びも含めています。学習者を中心に、様々な学びが形成されるのです。
ラーニングデザイン・ハンドブックは、Owens-Kadakia Learning Cluster Design(OK-LCD)モデルというフレームワークを紹介しています。ラーニングクラスターは、このモデルの中核になるものです。
OK-LCDでは、まず業務でのパフォーマンス目標に焦点を当てます。そして学習者の視点に立ち、ぺルソナを設定します。そして、学習者が必要な時に必要な学習ができるようにラーニングクラスターを設計していきます。
ラーニングクラスターでは、フォーマルな学習に加え、いつでも学べる学習環境と人々とつながるソーシャルな環境を設定していきます。この3つの視点が特徴ともいえます。一つの研修にすべてを詰め込むのではなく、職場での学習、他の人との学習、研修以外の学習リソースの活用といったものを取り入れながら、学習者が成長できる環境をデザインしていきます。
従来の能力の向上を目的に設計された研修だけではなく、職場の中での成長を見据えて学習環境を設計することが今後の企業内の学習に求められているのではないでしょうか。
OK-LCDの詳細につきましては、ぜひ書籍を読んでください。企業の人材開発担当者はもちろん、現場のリーダーの方にもおすすめです。
職場での学びの実際。- How Workforce Learn -
Degreedは、ハーバードビジネスパブリッシングコーポレートラーニングと共同で、世界中の数百人の従業員、マネージャー、エグゼクティブを調査しました。その結果の中で一番着目すべきことは、従業員は、企業が提供している研修以上に、職場での学習を実行しているということです。さらに、その学習はWeb検索や動画サイト、書籍、同僚や上司との会話など多岐にわたります。
これはグローバル企業だけの話ではありません。日本においても同様の現象は起きていると想定することは容易いことです。従業員たちはいったい何を学習しようとしているのか。どうやって学習を行っているのか。研修の受講履歴だけではなく、職場での学習活動にも目を向けていくことが、これからの学習環境を作っていくためには必要なことではないでしょうか。
また同レポートでは、職場の学習についての障害についてもアンケートを取っています。その中で、一番の要因は学ぶ時間がない(作れない)というものでした。しかし、障害となるものは時間だけではありませんでした。学習についての方向性の欠如、学習に対しての理解や評価、上司が学習を推奨していないといったことが上位にあがっていました。
この結果から、企業内の学習について取り組むべきアイデアが得られました。
・ガイダンスや方向性を示す
今の業務や次のキャリアを考えたときに何を学んでいくとよいのか、自分たちの業界ではどんなスキルが一番重要なのかというようなガイドがあると、学習へのきっかけが強まります。
・企業が学習を認め、それに報いる
仕事で達成したことだけが報われ、学習したことが報われないとしたら、どうでしょう。また、学習した内容を活かす機会がまったくなかったらどうでしょう。業務と学習が連動していくことで従業員も企業も成長していきます。
・マネージャーが学習を奨励する
マネージャーの行動が、従業員の学習に大きな影響を与えます。自ら率先して学び、自分自身で学んでいることについてメンバーに共有したり、メンバーに対してコーチングを行うことで学習への関与を高めていくことができます。
その他にも新しい学習方法が出てきています。世論調査の回答で、人々がどのようにスキルアップしているのか、ここ数年の間に従業員がどのように学習しているのかを知るということは、環境の変化に適応していくには必要です。
これらの結果を踏まえ、Degreed社のCLOであり、世界経済フォーラムとパートナシップを組んでいるケリー・パルマー氏は、これからの学習の方向として次の3点を挙げています。
・業務の流れの中で学ぶ(In the Flow of Work)
バーチャル、チームベース、コラボレーティブ
・テクノロジーを活用する
デジタルコンテンツ、モバイル、ビデオ、クリエイタープラットフォーム
・お互いに学びあう(ピアツーピア学習)
知っていることを教えあう、専門家をフォローする、コーチング
職場の環境が大きく変化している中、従来の研修モデルだけではなく、このような流れを取り入れた学習環境を構築することが、企業や従業員にとっての成長の支援になります。
How Workforce Learnのレポート内容につきましては、弊社ブログをご参照ください。
70:20:10フレームワーク
Degreed社とHR Exchange社によるWebinarでは、70:20:10モデルについて触れていました。
Webinarのオンデマンド配信:
70:20:10については、人材開発に携わる方であれば一度は耳にしているモデルかと思います。人が職場で学ぶとき、10%が研修(フォーマルラーニング)、20%が助言や指導(ソーシャルラーニング)、70%が仕事上の経験(エクスペリエンス)からというものです。
70:20:10というよりも、パフォーマンスベースドラーニングという言葉を採用している企業が多いかもしれませんが、どちらも同じ目標を持っています。
70:20:10 Instituteの共同設立者であるCharles Jennings氏によると、70:20:10というのは、学習と実践についてより広く考えるためのフレームワークや参照モデルであると説明しています。その目的は、組織の成果を高めるためのものであり、学習とパフォーマンスを結びつけることです。
70:20:10フレームワークで考えていくときに抑えるべきポイントは次の2点です。
・ほとんどの学習は仕事の一部としておこる。
・最も優れた学習は、多くの場合、職場で行われる
自転車の例がイメージしやすいかと思います。理論を学んで自転車に乗れるようになったわけではなく、練習や経験を通して学んできたことは、経験上、知っているのではないでしょうか。
70:20:10のフレームワークを適用していくには、研修から考えるのではなく、業務の面から設計していきます。学習と業務が統合され、継続的に学習する環境ができあがると、より大きな価値が出てきます。
企業内学習を考える上での視点
OK-LCDや70:20:10からは、「研修だけが学習ではない。」「パフォーマンス目標から学習を考える。」という点が示唆されています。How Workforce Learnでは、「従業員は様々な方法で学んでいる。」「ガイドやマネージャーのサポートが重要。」という点が示唆されています。
働き方やビジネスが多様化してきている今、従来のような研修を軸とした育成モデルから、変化をしていく時期に来ています。
企業としては、研修体系を整えることも一つの重要な要素ではありますが、従業員が常に学習し、成長できる環境を整えるということが求められてきています。
従業員としては、研修だけがスキルアップの手段ではないということを改めて認識し、学びの習慣化が一つのポイントになってくるでしょう。
今回の記事を参考に、これからの企業内での学びを再検討するきっかけにしていただければ幸いです。
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