昨今、人材開発の分野で、LXD(Learning eXperience Desgin)とLXP(Learning eXperience Platform)という2つのキーワードを目にすることが多くなっています。
どちらもLX(学習体験)というキーワードが使用されています。このLXも、最近特に着目されています。
LXDは研修関連の内容で使用されていて、LXPは、Learning Technologyやシステム関連の内容で使用されています。実は、それぞれのLXは少し内容が違うものを指していますので、考察を交えながらご紹介していきます。そもそもデザインとシステムとで違う分野なのですが、その違いを理解しておくと検討を進める際に役立ちます。
例えると、LXDが、京都への団体旅行ツアーの企画で、LXPが旅行会社といえます。冬の京都を満喫してもらうために、団体ツアーでありながらも個人の要望に合わせて移動手段やオプションツアー、宿泊ホテルなどの選択肢を用意し、快適な体験をしてもらうという点がLXDのイメージになります。全国の寺院をめぐりたいという人に対して、京都や伊勢へのツアーや日光への個人旅行の紹介や、寺院関連のSNSコミュニティを紹介や定期的な情報提供を行うなど、1回の旅行だけでなく、全国の寺院をめぐり終わるまで継続的に体験を提供するのがLXPのイメージです。さらに、寺院だけではなく温泉めぐりをしたいという要望にも同様の対応を取ります。
少しイメージをつかめていただけましたでしょうか。どちらも企業の人材開発環境には必要なものですので、この違いについてご紹介をしていきます。
LXについて
LXは、Learning eXperience(学習体験)のことを指します。UX(User eXperience)を学習分野に適用させた概念のことです。
UXは、製品やサービスを購入、利用する際の一連の体験を指します。機能や価格、使いやすさといった点について考えるだけではなく、顧客の体験全体を重視したアプローチです。
学習の世界でも、学習方法や学習設計ではなく、学習体験が注目されてきています。ロミンガーの70:20:10の法則にあるように、人は学ぶときに、経験から学ぶ部分が多いと言われています。また、学習部分だけではなく、事前事後を含め学習以外の部分をどのように行うか、学習した内容をどうやって業務に活用していけるかについてまで取り組んでいる流れもあります。
いずれにせよ、パフォーマンスを出すためには、学習は学習部分だけではなく、体験も含めて取り組んでいくということが潮流になってきています。従来も、HPI(Human Performance Inpruvement)の考え方では、学習は一要素であり、環境や動機付け、目標やツールなど他の要素も含めてどのようなアプローチが適切かを考えていきますが、その考え方が研修を検討する際にも入ってきているといえます。
LXDについて
LXDは、学習プログラムのデザインですので、目標がパフォーマンスになってきます。何ができるのか、どのような行動をとることができるようになるのかがという目標に対して、様々な学習体験をデザインしていきます。いわゆる事前事後学習、経験学習の要素だけでなく、学習者にとって講義がよいのかオンデマンドがよいのか、講義を受けるときにはどのように参加してもらうとよいのかまでその検討範囲は広がります。 学習の開始前から、業務に戻って実践し続けるまでの時間軸と、学習者によりそったメディア、アクティビティなどのリソースの軸でみながらデザインを行うイメージでしょうか。
LXDについては、Learning eXperience Designという団体が推進していますので、まずはこちらを確認してみることをお勧めします。他にも、ATDをはじめ多くの団体で、学習コースやセッションがあります。
似たキーワードで、体験学習や経験学習というものもありますが、体験学習は、実際の活動を通じて学ぶことを目標とした学習手法です。また、経験学習は経験を通じて学んだ内容を振り返り、次の経験に活かしていくことで学んでいくプロセスになります。
LXDはこれらを包括した考え方といえます。
LXPについて
LXPについては、システムになります。その企業の従業員全員に対し、今後のキャリアを目指す中、成長のためのスキルを身に付けるため、様々な学習リソースや学習機会をパーソナライズしてリコメンドしてくれます。
ここでのLXとは、キャリアや生涯学習の視点にたった学習体験といえます。今の業務を遂行するためのスキルを学習した後、さらにそのスキルを深める学習を行うこともあれば、業務のための他の関連スキルを学ぶこともあるでしょう。また、キャリアアップのためのスキル修得や異動に伴うリスキリングのための学習もあります。
学習においては、研修やコースの受講だけでなく、書籍や動画サイト、外部のWeb記事やブログから学ぶこともあるでしょう。受講に関してだけでなく、日々学んでいる学習活動にの支援もLXPによる学習体験といえるでしょう。
LXPについては、ぜひ、弊社ブログをご参照ください。いくつかのテーマでご紹介しています。
LXDとLXPの整理
今紹介した内容を表で整理してみます
| LXD | LXP |
目標 | パフォーマンス、スキル | キャリア、複数スキル |
期間 | 短~中期 | 長期(生涯) |
視点 | コース、プログラム | キャリア、リスキリング |
関連キーワード | デザイン思考 認知科学 社会心理学 など | ラーニングカルチャー リスキリング 生涯学習 など |
ID、LMSとの比較からの考察
さらに違う観点で比較するとLXD、LXPをイメージしやすいと思います。
横軸を時間、縦軸を対象とし、さらに、ID(Instructional Design)、LMS(Learning Management System)を加えて分類してみました。
IDは、従来からある研修設計の考え方です。LMSは、集合研修やeラーニングを統合的に管理運用していくシステムになります。
まず、横軸から見てみます。
LXDとIDは、学習プログラムのデザインなので、目標が明確で、期間が短かくなります。また、対象も参加者になるため、特定のグループや個人になります。
ここでのLXは、学習者がどのように学んでいくかと考えるか、どのようにしたら学習者が理解しやすいかを考えることの違いとも言えるのではないでしょうか。
かたやLXPとLMSはそれらを取りまとめているため、範囲は長期にわたり、かつ様々な目標を網羅することになります。対象も全員、全グループということになります。いずれも、キャリア(ジョブ)に対してのスキルギャップから、学習を進めるということでは同じですが、学習にいたるまでのアプローチの違いがここでのLXの違いになります。
すべての道筋が決まっていて進めていくのか、道筋を従業員が見出していきながら進めていくのかの違いとも言えます。
次に縦軸から見てみます。
IDやLMSは、学習プログラム中心で、講師や管理者の視点で取り組む傾向になります。よりよい学習プログラムを作り、多くの人に同品質で届け、全体に浸透させることは、両者の利点です。スケーリングにも適していると言えます。
一方LXDとLXPは、学習者視点で考えることを重視しています。パーソナライズされた環境となるため、学習リソースや学習方法は多岐にわたります。学習者が自律的に学ぶ環境に適していると言えます。この点がLXを理解するポイントになります。
これからの人材開発に向けて
今後、ハイブリッドワーク環境への対応が必須となってくる企業は、学習についても新たな環境に対応していくことが必要です。学習プログラムにおいてLXDを取り入れていくことはもちろん、従業員が学習していく環境としてのLXPも、従業員の成長には必要不可欠な環境になります。
もちろん、従来のIDもLMSも重要です。IDをしらないとLXDもできないし、LMSはLXPでは対応していない要件を網羅しています。これらをきちんと理解した上で検討していくことが重要です。そしてこれらをどのように使い分けていくかが、これからの人材育成戦略には必須となります。
最後に今後の方向性として、一つの例をご紹介します。
2021年のATD Japan Summitのセッションで、ラーニングクラスターデザイングループのLisa MD Owens氏が、「The Owens-Kadakia Learning Cluster Design Model」を紹介していました。このモデルは、これからの学習をデザインしていく上で、とても示唆を与える考え方です。
書籍(英語)も出版されていますので、関心のある方はチェックしてはいかがでしょうか。なお、2022年の夏に日本語版が、出版される予定があるそうです。
また、2021年に開催されたATDのオンラインカンファレンスのATD21では、同グループのCrystal Kadakia氏が、LCDモデルと実際の導入事例を発表していました。ここでは、Degreedが、Learning Clusterの一部を担うソリューションとして触れられていました。 一早くLXDとLXPをうまく関連して活用している例だと印象深かったです。
LXDとLXPにおけるLXの違いを少しでもイメージしていただけましたでしょうか。人材開発に携わる方にとって、LXは今後の重要なポイントになってきます。これをきっかけにLXへの関心を高め、取り組んでいただけると幸いです。
ディーシェでは、LXPのリーディングソリューションである「Degreed」を提供しています。LXPにご関心がある方はお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ先:degreed@disce.co.jp
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