JPMorgan Chaseは3.5億ドルを教育やトレーニングプログラムに投資しています。Amazonは同様に従業員10万人を再教育させる予算として7億ドルを投資すると宣言しました。AT&Tは10億ドルを教育予算として支出しています。そして、PwCは今後3年~4年間で27.5万人の従業員への教育予算として、30億ドルを投資するといっています。
世界のリーディングカンパニーがこれらの巨額費用を投資するのはどのようなミッションからなのでしょうか?それはすべてアップスキルのためです。
世界の有名企業には多額の投資をする予算があるかもしれませんが、アップスキルはすべての企業にとって重要でクリティカルです。世界経済フォーラムは、世界の労働力のほぼ3分の1の10億人が、今後10年間で新しいスキルを必要とすると予測しています。
したがって、調査が新スキル獲得の緊急性を証明した場合、PwCがアップスキルに大きな投資をすることは当然のことです。将来の最大の脅威について尋ねられた各CEOは、最も重要な懸念事項の1つとして「重要スキルの可用性」を挙げました。
スキルは憂慮すべき最重要項目になっており、世界中の経営陣が従業員に大規模な投資を行っています。しかしこれらの投資が報われるという保証はありません。
成功というのは投資の仕方にかかっています。企業学習の在り方は大きな変革の真っ只中にあります。従来の学習モデルは崩壊しており、アジリティ(俊敏性)の必要性と新しいアプローチによる結果により学習の在り方は混沌としています。ベストプラクティスと科学的調査を活用してワクワクする活気に満ちた学習文化を社内に育んでいる企業がある一方、他の企業は知識と専門知識に関する時代遅れのトレーニング方法にとどまっています。
では、JPMorgan Chase、Amazon、AT&T、PwCのようなラーニング部門の責任者は、急激に増やした予算をどのように費やすべきなのでしょうか。彼らは大胆に未来に立ち向かい、輝かしい学習文化を創り出し、科学的にも証明されたアプローチを実行しなければなりません。
未来に向かう
私たちの学ぶ方法は変化しています。Degreedの最新調査How the Workforce Learnsは、コンテンツ自体が職場学習を促進するのに十分ではないことを示していますが、成功している企業は職場学習の環境を作り出しています。
平均的な従業員は、検索した記事、同僚が推奨したポッドキャスト、アルゴリズムが提案したビデオなど、吟味されたコンテンツを学ぶ多くの時間を費やす可能性があります。一部の先進的な企業は、伝統的な集合研修を廃止し、オンラインを主体としたスキルアカデミーを始めています。これらアカデミーでは、自主学習とグループベースの協調学習を組み合わせて、業務の流れの中で自分の能力を向上させています。
調査で示すようにこの戦略は、学習の79%は企業が準備する以外の低コストまたは無料のリソースからの学習で、費用を節約できるだけでなく、学習の未来を効果的にします。
ハーバード・ビジネス・スクールのMichael Beer教授も含め、従来のフォーマルトレーニングのほとんどは失敗しており、フォーマルトレーニングが企業内の実在する実践にフィットしていないからだといいます。「組織化と管理の仕組みは非常に強力です。しかしトレーニングから戻った従業員やチームが、学習内容を実践できるようにしない限り、効果的になることはないでしょう。」とBeer教授は警告します。
ゆえに従来のトレーニングの代わりに、学習は業務中に行う必要があります。業務中に行うことにより、知識だけでなくスキルも構築されます。この違いは何でしょうか?知識は習得情報ですが、スキルは習得情報を元に実践やフィードバックとともに発達する能力です。
スキルは知識を打ち負かします。たとえばスポーツで例えてみましょう。野球やサッカーのルールややり方を知っている人は大勢います。しかし実際に変化球を打ったり、ディフェンダーをドリブルで抜き去ったりすることができるスキルを持っている人ははるかに少ないです。それらのスキルがなければ、知識は役に立ちません。ゲームを勉強するだけではいけません。実践する必要があります。
同様に、従業員はチュートリアルビデオを見たり、トレーニングモジュールで学んだりしますが、実際に実践しないとスキルを構築できません。
従業員のスキルを適切に伸ばすにはラーニングループを試してください。私の著書『The Expertise Economy』では、このフレームワークについて詳しく説明しています。Knowledge(知識)はラーニングループの最初のステップであり、その後にPractice(実践)が続きます。次に、従業員は努力を実らすためにパフォーマンスに関するフィードバックを必要とします。Reflection(振り返る時間)を提供して、学んだことを定着させます。そしてラーニングループが再び始まり、新鮮な知識を得ていきます。
テクノロジーコンサルティング会社のBooz Allen Hamilton社は、従業員のためのラーニングループを効果的に導入しました。Booz Allen Hamilton社は、外部から新規採用するのではなく、データサイエンティストを社内で育成しています。
まず、参加従業員は既存スキルに対して評価します。次に、従業員は必要な知識を得るために厳選されたパスウェイを学びます。この情報を吸収した後、従業員はメンターと一緒にミニプロジェクトに取り組み、知識を得た新たなスキルを実際に実践します。ラーニングループを締めくくるために、データサイエンティストとなった従業員は、プロジェクトでその能力を証明します。
学習文化を作る
AT&TとPwCの場合、数十億ドルの教育予算があるので、選抜された少数の従業員に対してだけでなく、大勢の従業員に対して複数スキルセットの育成支援をする必要があり、アップスキルは大規模に行われる必要があります。したがって、組織全体が本物の学習文化が必要となります。
これは、マイクロソフト社CEOのSatya Nadella氏にとっても、取り組まなければならない最優先事項でした。「文化は状況に適応し、変化する必要があるものです。企業は学習文化を持つことができなければなりません。」とNadella氏は言っています。
マイクロソフトにこの文化を浸透させるために、Nadella氏は架空の2人の従業員についてスタッフに話しました。「2人と一緒に仕事をする場合、1人はなんでも学ぼうとする人であり、もう1人はすべてを知っている人です。たとえ元々の能力が少なかったとしても、長い目で見た時にはなんでも学ぼうとする人の方が上回ります。」
これは抽象的な例え話だけではありませんでした。Nadella氏は、信じていた道をモデル化しました。「心の中で成長したいという態度を示すこと、それを正しく理解することができれば、私たちは目指す文化に進むことができるでしょう。」
企業は通常、学習文化を構築する4つの段階を経ます。段階は低いレベルから始まります。1つ目の段階はコンプライアンス文化で、学習は必須のものに限定されます。次の段階は、現在必要とするトレーニングであり、従業員は自分の業務に伴うものを学ぶように自分自身を鼓舞します。従業員個人が組織の主要な先進的な取り組みのための新たなスキルを構築する戦略的学習は第3段階です。そして最高レベルの第4段階は継続的な学習です。つまり従業員は業務の流れの中で自身の能力を常に磨くことを意味します。
この段階を登るのは気が遠くなるかもしれません。しかし多くの人々がすでに渦中にいます。マネージャーは、企業の学習文化にとって最も重要なインフルエンサーである可能性があります。従業員はマネージャーからのガイダンス、承認、励ましを切望しています。
マネージャーにとって次のステップは簡単です。マネージャーは明確な期待を従業員に設定し、学習に時間をかけることが重要であることを従業員に思い出させることができます。マネージャーは、各個人の目標を把握・設定し、どのスキルを構築すべきかについてのガイダンスを提供するために、従業員と定期的にキャリアの会話を始める必要があります。さらに、マネージャーは、従業員が自分のスキルを発揮できる新しいプロジェクトに任命し、成長を称賛する機会を与える必要があります。
実証されたアプローチの導入
これまでのところ、筆者が共有したアドバイスの多くは個人でも行うことができます。従業員はスキルを構築し、経営陣は学習文化を社内に促進し、マネージャーは学習しながら従業員を導くことができます。
しかし、より体系的なシフトはどうでしょうか?企業は仕組みとインセンティブを調整して、効果的な学習を可能にすることができているのでしょうか?
確かに、より深遠な変化は強力です。重要なのは、データと調査に裏打ちされた実証されたアプローチを導入することです。考慮すべき方法を次に示します。
認められるラーニング スタンフォード大学の心理学者Carol Dweck氏は、企業が採用している成長マインドセットに関する研究で有名です。しかし、彼女は多くの人々が彼女の研究を誤解しているのではないかと心配しています。代わりに、Dweck氏は組織に、努力だけでなく学習を認め、学習目標を実際の報酬に結びつけるように主張しています。
強制の廃止 仕組みとインセンティブを変化させる1つの強力な方法は少し反直観的で、強制的な要素を取り除くことです。著名なDaniel Pink氏のモチベーションに関する科学的研究(邦題「モチベーション3.0」)は、個のモチベーションは外因性の強制力よりも強力であると言っています。ほとんどの人は、アメとムチの代わりに、自律性、習得、目的を通じて成長します。
学習の条件の最適化 従業員が学習しようとしている場合、企業は成功のために従業員を適所に配置する必要があります。Chan-Zuckerberg Initiative社のBror Saxberg氏は、ラーニングモチベーションの専門家です。彼のチームは、関連性、自信、環境、感情の4つの重要な要素を特定しました。企業はこれらの状況を監視し、問題がある場合は従業員を支援する必要があります。
キャリアに関する定期的な会話 優秀なマネージャーはすでに行っているかもしれませんが、優れた企業はすべての従業員にキャリアに関する定期的な会話を奨励しています。筆者がLinkedInにいる間、キャリアに関する定期的な会話がどのように従業員のエンゲージメントとリテンションを促進したかをトラッキングしました。Harvard Business Reviewは、一般的な企業についても同様の結論を発表しています。
ラーニング分析からの洞察 上記で述べたように、Degreedの最新調査では、人々が実際にどのように学習しているかを示しています。人は、会社のL&D部門が提供するリソースだけでなく、専門家の人的ネットワークやお気に入りのWebサイトなど、様々なソースを探しています。ラーニングプラットフォームは、これらのラーニング活動をトラッキングし、動向や傾向などのパターンを見つけることができます。Degreedを導入した最も精通しているクライアント企業は、自社のユーザーデータを深く掘り下げています。この分析は、企業が従業員に提供するラーニングリソースを調整し、戦略を洗練するのに役立っています。
企業が3.5億ドル~30億ドルをラーニングに費やしているかどうかにかかわらず、世界のリーディングカンパニーは、自社の学習戦略が正確な調査と詳細なデータに裏付けられていることを確認する必要があります。もしそのような予算がなくても、すべてのラーニング部門の責任者は、ラーニング予算を有効に活用できるように考えなければなりません。これらの実証済みの手法は、新しく必要となる文化を支え、企業を将来に備えることができます。
もちろん、古い従来の習慣を変えるのは難しいかもしれません。多くの人は、集合研修でないと学習しているとは思わないかもしれません。しかし学習の定義を広げる時が来ました。CEOの憂慮に対処し、10億人の労働者をアップスキルするには、イノベーションを起こす必要があります。今がチャンスです。この瞬間をつかみましょう。
By Kelly Palmer, Chief Learning Officer
May 21, 2020
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